MQ会計(基礎編)・・それは「儲けの会計」!!

プロローグ:「会計」・・と聞くと、どんなイメージを持たれるでしょうか?売上、利益、決算、税金・・こんなところでしょうか?
企業の会計には大きく分けて3つの会計、「財務会計」「税務会計」「管理会計」があります。会社の経理は主に「財務(税務)会計」ですので、その目的は納税額を確定することですから、財務会計は「納税のために税務署の代行作業をやっている・・」ぐらいの感覚で、税理士にまかせてしまいましょう。なぜなら、「決算書」は”儲け方”を教えてはくれないからです!

そうです!経営にとって一番大切なこと・・それは”儲ける”ことです!
そして「MQ会計」は、”儲けを出すこと”にフォーカスした 「管理会計」の一分野なのです。

当研究所では、「MQ会計」シリーズとして三部作のセミナーを制作しました;
① MQ会計(基礎編):MQ会計の基本を理解します。「これがMQ会計!」
② MQ会計(中級編):MQ会計で最も重要なのはP(価格)とQ(数量)です。「MQプライシング」
③ MQ会計(実践編):プライシングの方法を、エクセル実習で解説します。「実践MQプライシング」

セミナーでは、専門的な用語はなるべく避けて解説していきますが、会計データを加工して使いますから、基礎的な財務会計の用語の理解は必要です。でも、ご安心を・・ MQ会計は、その”単純な仕組み”さえ理解できれば、決して難しくはありません。

それではまず、MQ会計の最重要コンセプト・・「儲け ≠ 利益」を理解することから始ましょう。

これがMQ会計!~決算書から「儲け」は見えない~

会計は、会計(経営)を”数字”で捉えるのではなく、まず、”イメージ”することから始めます。

このチャプターでは会計を、まず”ハコ(面積)”で考え、簡単な「儲けの方程式」を解説します。そして、G(利益)を最大にするMQ(粗利総額)を考えてみましょう。 (1時間24分)

【1. 儲けの方程式とパズル】
儲けの”方程式とパズル”と言っても、何も特別なものではありません。 「MQ方程式」とは(決算書とは違って)逆方向からの方程式です。つまり「G(利益)=(P-V)Q-FC」と置きます。また、「MQパズル」の 基本的な作りはPL(損益計算書)を図でイメージしただけのものですから、大切なのは、「金額(数字)を、面積(広さ)で”絵”に描いてみる」ということです。そうすれば、決算書の数字とは違った会計のイメージが見えてくるはずです。
そしてGを最大にするということは、MQを最大にすることですから、P(価格)V(変動費・原価)Q(数量)の最適な組合せを考えることに他なりません。そして、これこそが「経営戦略」だと言うわけです。

【2. 損益分岐点分析と利益感応度】
管理会計で必ず出てくるアイテムが「損益分岐点分析」です。これは、”売上と利益の関係”を視覚的に表現しているために分かりやすいという利点はありますが、実は「価格が一定で、売上(数量)は直線的に増加する」といった前提が隠されていますので、ある時点(価格・数量)での損益は計算できますが、実は価格の変動が売上にどう影響するかまでは分かりません。つまり市場や競合の外部環境の変化までは、このシミュレーションでは出来ないので、実際の感覚とはズレが生じてくるわけです。そして困ったことに、計算問題としては「答え」がはっきり出ますから会計の資格試験では定番で、「管理会計=損益分岐点分析」という構図ができあがっています。
私は、この損益分岐点分析を「古典的」ととらえて、あくまで”参考程度”にしか見ません。なぜなら、MQ会計においては損益分岐点を、「P,V,Q,FC」の4つの変数の”組み合わせ” から考えるからです。そして、ここで重要なのは、この4つの変数の利益に対する影響の”度合”であり、これが「利益感応度」という考え方です。これは、セミナーの中でも簡単なシミュレーションを示し、アメリカでの研究結果も紹介しましたが、利益に対して最も重要なのは「P(価格)」なのです。よくニュースで見られるように、企業の業績が悪化すると、すぐにリストラ(人減らし)だ、経費削減だ、と言ってFC(固定費)を下げようとしますが・・実は、利益に対する感応度(敏感さ)は、P(価格)には遥かに及ばないのです。それどころか、あからさまな経費削減は社員のマインドを冷やし、結果的にP(価格)やQ(数量)を減らし、ひいては削減した経費以上にG(利益)が減るという結果につながります。

【3. ケーススタディ:VとQのトレードオフ】
ここでケーススタディとして取り上げたのは「いきなりステーキ」です。全国で出店していますので、みなさんもロケットがついた看板を街中でよく見かけられるでしょう。さて、 V(変動費・原価)には、いわゆる”業界標準”と言ったものがあります。飲食業の場合は「食材費3割」と言うのが常識(後は人件費3割、店舗経費が3割、利益1割) ですが、「いきなりステーキ」は”良い肉を安く”をコンセプトに、なんと「食材費5割」です!普通なら経営的には成り立ちませんが・・「立ち食いステーキ」という新しい提案で消費者のマインドをつかみ、「V(材料費)を上げることによるM(粗利)の減少分を、Qの増加(客回転数を上げる)でカバーする」戦略が当たりました。開業当初は、それこそ店外に列を作って、いつ来てもお客で満員、立ち食いですから食べ終えたらさっさと店を出る・・という好回転が続き、会社の利益も上場でした。
しかし、(Vを増やすことによる)Mの減少分をQでカバーするには、出店攻勢による継続的な規模拡大が必要な中で、他社の類似店の市場参入による価格攻勢に加えて、(フランチャイズですから)同店同士での客の奪い合いも発生したり、消費者の「いい肉でも、ステーキばかりでは・・」という消費者し好にも変化が見られ、2019年の末には非常に厳しい状況にあると言われております。
MQ会計は4つのコスト要因の組合せでGを最大にすることを目的としますが、それらを組み合わせるということは、外部環境(市場規模、競争など)をも読まなければならないわけですから、単に「コスト要因を”交換”すればいい」というほど単純なものではないということを、この「いきなりステーキ」の事例が教えてくれます。

【4.経営現場への応用①:MQのスピード】
MQ会計は「1つ1つの商品の”利益”にこだわる会計」・・とも言えます。制度会計ではありませんので、決算を待つ必要もありません。一般的な(パソコン)会計システムがあれば、そこから売れた商品一つ一つの損益は簡単に集計できるはずです。そして、各商品ごとのMQを足し合わせれば、会社全体のMQとなり、このMQでFC(固定費)が賄えるかどうか・・が即ち、会社の安全性・安定性というわけです。会社の安定性を見るのに、(年に一度の)決算を待つ必要はなく、四半期や月次はもちろんのこと、「日次」で数字を確認することすら可能です。
多くの企業では、「売上」を営業現場の目標にしていますが、「売上(PQ)」では会社の”儲け”は分かりません。なぜなら、売上を上げるだけなら、採算度外視で安売りをすれば済むことですから・・。会社の業績は「売上(PQ)」ではなく、「粗利(MQ)」で測らなければ本当の成績は分からないのです。また、MQ(儲け)の思想を会社に浸透すれば、社員は自然と(MQを食いつぶす)経費に目が向くことでしょう。そうすれば、効果のない、スローガンだけの経費削減は自然消滅します。そして、結果がすぐに分かるMQですから、MQの微妙な変化を素早く読み取り、それに対して素早くアクションを取ることができます。 そして、これこそが「MQのスピード」なのです。

【5.経営現場への応用②:MQの柔軟性】
私は前職で製造業の会社の経営に携わってきました。生産工場を中国に、販社を日本・香港・台湾に置く年商約40億円程度とは言え、文字通りの多国籍企業です。そして、この中には5種類の為替と(各国で)4つの会計制度が存在する上に商流も様々ですので、それらを一つの会計基準でまとめる(連結する)のは至難の業でしたし、「1つ1つの商品のMQ」を為替調整した上で足し合わせて採算を見る・・というのは、ほぼ不可能でした。
とは言いつつも、個々の経営判断には会計データが必要になりますから、私は、制度会計(決算)の部分は、経営判断からは切り離して各国の会計基準に委ねて、MQだけを米ドル基準に統一した上で集中的に管理しました。ここで重要な点は、すべてを満足させることはできないと”割り切り”、必要な情報を選択して用いた点です。そして、その選択基準は、その会計情報が①”儲け”につながるか。②すぐに”答え”が見つけられるか・・のたったの二つだけです。
こうして、マニュアルで構築したMQ会計システムでしたが、経営がMQという一つのベースで見えるようなってからは、2014年からの急激な円安(黒田バズーカによる金融緩和)にも関わらず、MQ率、営業利益率とも4年間で倍にすることに成功しました。この間、売上高自体は増えていません。MQ会計に基づいて不採算の製品と顧客を整理し、思い切ったプライシング戦略を断行した結果なのです。

【6.MQシステム導入の基本方針】
MQシステムは単なる管理会計システムではありません。「儲け」というキーワードに、会社全体をまとめる「思想」そのものです。儲けのとらえ方は、業種、業態、会社構成等によって千差万別ではありますが、”儲ける”という会社経営の原則には、なんら変わるものではありません。MQシステム自体は、難解でも複雑でもありませんが、コンセプトをしっかり理解した上できちんと導入しなければ、その効果は期待できないのです。まずは、制度会計を理解した上で、それから脱却を図るというのがポイントです。

ショート・プログラム

番組をテーマ毎にショートプログラムとして分割しています(内容は同じです)。

【1. 儲けの方程式とパズル】
MQ会計の基本的な考えたである「儲けの方程式」と「パズル」を解説します。

【2. 損益分岐点分析と利益感応度】

制度会計をもとにした「伝統的な損益分岐点分析」では、本当の意味での「損益分岐点」は見えてきません。ここでは「利益感応度」という意味も理解してください。

【3. ケーススタディ:VとQのトレードオフ】

「V(変動費)とQ(数量)の交換」をテーマに、某焼肉チェーン店の経営戦略を考察します。MQ会計においては、4つのコスト要因を考えますが、単純な”交換”とはならない・・という点がポイントです。

【4.経営現場への応用①:MQのスピード】

MQ会計が機能すると、日次での決算も可能です。「日々是好日(決算)」というわけですね。決算が変われば、会社も変わります。

【5.経営現場への応用②:MQの柔軟性】

MQ会計においては、必要な情報を取捨選択して使う点が、制度会計と一番異なるポイントです。取捨選択の基準は①儲けにつながるか?②早く答えを出せるか?の二点です。

【6.MQシステム導入の基本方針】

MQ会計は、単なる管理会計システムではありません。会社経営そのものを変える「思想」なのです。システム導入においては、経営者のリーダーシップが重要です。