MQ会計(プライシング):P(価格)こそすべて!

MQ会計においては、利益(儲け)を最大にする4つの要素:P、Q、V、FCを考えるわけですが、その中で最も重要なのは、何と言っても”P(価格)”です。「基礎編」と内容が”かぶり”ますが、復習の意味でもキチンと理解してください。(1時間2分)

【1. PとQのベストマッチング】
MQ会計(基礎編)の復習になりますが、まず、会計という”数字”を”パズル(面積)”でイメージしてください。そして、この面積を変えることによって、いろいろなG(利益)を最大にする戦略を考えるわけです。その中で「あちら立てれば、こちらが立たず」、いわゆる「トレードオフの関係」にあるのが、言うまでもなくP(価格)とQ(数量)です。そして最も利益に敏感(これを「利益感応度」と呼びます)なのがP(価格)であり、これは過去の様々な研究からも明らかにされている事実なのです。


さて、日々の経営においては、PQのベストマッチングを探さなければいけないのですが・・これには、すべての業種に「共通のセオリー」はありません・・なぜでしょうか?それは、(自分で)コントロールできない事があるからです。もちろん、Pは自分で決定できます・・しかしQは”市場そのもの”ですから、その市場(需要)を意のままにコントロールすることはできません。通常は、”Pを操作してQを変える”ことが基本戦略となりますが、そこに競合がいる場合には、往々にして単純に対抗するだけの「(低)価格競争の罠」に陥ってしまい、結果的にはお互いが消耗し疲弊しますから、それは、ひいては消費者のためにもならないのです。

安易なP・Qのトレードオフは絶対に避けなければならないということを、MQパズルが教えてくれているのです。
また、「P・Qのベストマッチングを探す」ということは、「売上至上主義」から脱却することを意味します。

「売上=P X Q」ですが、ベストマッチングとは売上を最大にすることではありませんMQを最大にすることです。つまり、売上を最大にするには、採算度外視で安売りをすれば、それなりのQを稼げるわけですから、掛け算としてのPXQは大きくなりますが、一方でMQは極端に失われる・・と、言うわけです。MQ会計は「個々の商品のM(粗利)にこだわって、それに見合ったP、Qを選択する」ということですから、MQが減るような価格設定(プライシング)は許容されないのです。そして、そのことは経営の方向性も「売上至上主義」から「利益至上主義」への舵を切ることを意味します。

社会が本当の意味で、”売上を伸ばすこと”を目指して成功できたのは、高度経済成長期(1955~1973)だけです。これからの時代は、人口問題、環境問題を背景に、社会全体がシュリンクしていかざるを得ず、このパイが大きくならない以上、売上ではなく、企業が存続できる”利益”を追究していくことの方が重要になってきます。

【2. 値下げ飲むなら、もう一つまみ:安易な値下げは命取り】
「価格10%ダウン」と「数量10%減」は同じではありません・・なぜでしょうか?それは、P(価格)には、V(変動費、原価)が含まれるからです。M(粗利)に影響するのは、この価格に対する変動費の割合、つまり「変動費率」の大きさです。変動費率は、業種、商品によってだいたい決まっていますが、例えば「変動費率が30%」の商品のを10%値下げをした場合、同じMQ(粗利)を取り返すには、数量が約20%増えなければなりません。さらに”半額”にした場合の必要数量増加は実に2.5倍です!
これは、手品でもなんでもなく、エクセルで簡単な一覧表を作れば一目瞭然です。相手が消費者にしろ、企業にしろ、「価格を下げるのは最後の手段」ぐらいのつもりで価格交渉しなければなりません。そして、どうしても値下げしなければならない状況ならば、その価格減少分をカバーする”数量”を増やす算段(戦略)がなければならないというわけです。

そして、この「値下げ」と引き換えに数量を増やすことを「値下げ飲むなら、もう一つまみ!」と表現しているわけですね!値下げは簡単ですが、数量を増やすことは至難の業です・・なぜなら、数量は”需要(市場)そのもの”でコントロールが難しいからです。

※ スーパーの閉店前の(20%、50%・・)値下げや、「冬物在庫処分セール」など、思い切った値下げをよく見ますが、これは「機会費用」や「在庫費用」の問題であり、値下げすることによって数量が増やそうとしているのではなく、別のコストの削減や、他の商品販売への影響を狙った戦略ですので、MQ戦略がそのまま成り立つわけではありません。

【3. 越すに越せない「Q」の壁:「Q」は市場そのもの】

Q(数量)とは、即ち、市場・需要そのものです。Q(需要)を増やすには、3つの方法しかありません。
1. 価格を下げる(価格競争も含む)。
2. 既存製品の新しい価値観を市場に訴求して、新たな需要を生む。
3. 新製品を市場に投入して、新たな”市場(需要)”を創設する。

MQ会計においては、「1. 値下げ」に焦点を当てて、Q(数量)との因果関係をみているわけですが、ここで考えるポイントは、(1) Qは敏感にPの影響を受ける。(2) 値下げしても、Qは直ぐには変わらない(タイムラグが生じる)。 (3) 値下げは、その後のP・Qに長く影響する。という点です。

せっかく値下げしても、思った以上にQの増加につながらないばかりか、かえって他の商品の値下げ圧力につながったり、外部環境が変わってコストが上がっても、元の価格(値上げ)に戻すのは至難の業です。これは、単に商品の値段だけの話ではなく、増税時にその税金部分すら値上げが難しいといったことは、よく経験することでしょう。

Qが市場(需要)そのものである以上、「値下げ」が期待するような効果に結びつく保証がない上に、一度、値下げしたら長くその影響が及ぶということを、プライシングの際には十分考慮する必要がありそうです。

【4. P・Q関数の問題演習】
本編中で割愛したPとQの相関表の方程式と、エクセルの一覧表の作り方を解説します。

ショート・プログラム

番組をテーマ毎にショートプログラムとして分割しています(内容は同じです)。

【1. PとQのベストマッチング】

MQ会計は、4つの要因を単純に計算するものではありません。1つの要因を変えると、それは他に影響します。特にP・Q間は複雑です。その組み合わせが「ベストマッチング」です。

【2. 値下げ飲むなら、もう一つまみ:安易な値下げは命取り】

値下げするのは、その分、Qが増えて利益を確保できることを期待するからです・・。では、値下げに対して、どれくらいQを増やせばいいのでしょうか?

【3. 越すに越せない「Q」の壁:「Q」は市場そのもの】

Qは市場と需要そのものだと言うことを、まず理解しなければなりません。ですから「値下げ」が直ちに需要に結びつかないのです。値下げはあくまで、需要を刺激する一つの手段でしかありません。

【4. P・Q関数の問題演習】

P・Q相関式の方程式を解き、エクセルで一覧表を作ってみましょう。